軍歌「歩兵の本領」

別れの朝別れの朝(前期教育終了)

★別れの秋(とき)が来た。
入隊当初、班長から「お前ら、ここを去って後期教育隊に移るときは泣くからな!」と言われていた。
その時は、「わずか三ヶ月の付き合いだし、それに俺達は男だから泣くことなんてないよ!」と笑っていたものだ。
だがそれは本当だった。
消灯時間は2200だったが、その最後の夜は当直も大目に見てくれ、誰もが夜遅くまで名残を惜しんで語り合った。
考えてみれば、皆、故郷を後に、家族や友人や恋人と別れて、遥々遠くから不安な気持ちでやって来た仲間達だ。
そうして自衛隊で知り合い、文字通り寝食を共にして、苦楽を分かち合い、同じ釜の飯を食ってきた僚友(なかま)である。
わずか三ヶ月間の付き合いとはいえ、血肉を分けた親兄弟以上の情が湧いていた。
自衛隊は全国組織なので、これから配属される後期教育隊も全国津々浦々である。
遠いところでは北海道の部隊に配属される者もいる。
私たちの班では、中川(2等陸曹=階級・当時)副区隊長を囲んで深夜まで語り合った。
中川2曹は区隊長を補佐し、各班長の指導的立場にあった人物で、鬼軍曹と異名をとっていた。
「私は自分の苦しみは1秒たりとも我慢できないが、人の苦しみなら100年我慢できる!」が口癖だった。
文字通り鬼軍曹であったが、本当はとても暖かい人柄であった。
前期教育期間において私の最も忘れられない人物であったし、その後も数年間季節の便りを交し合った。
別れの日。
私たちは正装して、各配属先が書かれたプラカードを持って、駐屯地内を第109教育大隊歌に合わせて行進した。
基幹隊員達が整列して、拍手で私たちを見送ってくれる。
パレードが終了すると本当の別れだ。
或る者はジープで、また或る者はマイクロバスで、そしてまた或る者は列車で、それぞれの赴任地へと旅立っていく。
見送る者も、見送られる者も、声を限りに別れの言葉を投げかけ合う。
「がんばれよーっ!!!!」
「また会おうなーっ!!!」
「連絡くれよー手紙書けよーっ!!!!」
後は言葉にならない・・・。
自衛隊における前期教育課程で知り合った友人は一生の宝である。

「第109教育大隊歌」:石田和儀作詞、陸川信義作曲

故郷の山河あとにして 集いし若き友と友

古き歴史の近江路に 比えいの勇姿仰ぎ見て

若き日本の血はたぎる

我等109教育大隊伝統の

健児となるは誉れなり


訓練中の新隊員達
(小銃擲弾の発射方法を指導する中川軍曹)

※文中に登場する個人名、団体名、組織名等は一部架空及び仮名であり実在のものと異なります。

有刺鉄線

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